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いちじくのコンポート

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こんにちは。「食べ物効能効果」をご案内しております、管理栄養士・栄養疫学PhDの笹原みのりです。
秋風がすっと頬を撫でるようになると、スーパーの果物コーナーに、ふっくらと愛らしい滴型をした「いちじく」が並び始めますね。
私の実家は米どころ新潟の農家なのですが、祖母の台所でコトコトといちじくを煮る、あの甘く芳醇な香りが漂うと、「ああ、今年も実りの秋がやってきたんだな」と心がじんわりと温かくなったものです。
さて、今日あなたにどうしてもお伝えしたい、食の科学があります。
ご自宅でいちじくのコンポートを作る時、つい皮を剥いてしまっていませんか?
「皮のザラザラした産毛が気になるし……」
「生で食べると口の周りが痒くなるから、皮は剥かないと……」
そのお気持ち、痛いほどよくわかります。せっかくの手作りですから、失敗や不安は避けたいですよね。でも、実はそれ、いちじくの最も素晴らしい栄養と、息を呑むような美しさを、ごみ箱へ手放してしまっているのです。
本記事では、栄養疫学と調理科学を修めた専門家の視点から、いちじくを「皮ごと」煮るべき圧倒的で科学的な理由をお話しします。
あなたが気にしている「産毛」や「エグみ」が消え去る正しい下処理、そして、お鍋の中で宝石のようなルビー色を固定する魔法のレシピを、余すところなくお伝えします。
この記事を読み終える頃には、あなたはもう、いちじくの皮を剥くという選択肢には戻れなくなっているはずですよ。私と一緒に、おいしさの裏にある「根拠」を紐解きながら、秋の台所仕事をもっと愛おしい時間に変えていきましょう。

いちじくは、古くから「不老長寿の果実」と呼ばれてきました。
その神秘的な異名の秘密は、実はぷちぷちとした果肉以上に、「皮」と「皮のすぐ下の部分」にこそ隠されているのです。
日本でよく流通している赤紫色のいちじく(桝井ドーフィンなど)の皮には、「アントシアニン」というポリフェノールが豊富に含まれています。
アントシアニンには強力な抗酸化作用があり、私たちの細胞を傷つけ、老化を早める「活性酸素」から体を守ってくれる頼もしい働きがあります。年齢とともに気になるお肌のサビを防ぐアンチエイジングの要であり、目の健康維持にも役立つ成分なのです。
皮を剥いて捨てるということは、この貴重な「天然のサプリメント」を捨ててしまっているのと同じ。皮ごと煮ることで初めて、この素晴らしいポリフェノールを余すことなく体に取り入れることができるのです。
もう一つ、栄養学の観点から絶対に見逃せないのが、皮と果肉の間に豊富に含まれる「ペクチン」という水溶性食物繊維です。
「甘いものを心おきなく楽しみたいけれど、健康や体型も気になる」
そんな健康志向のあなたにとって、ペクチンを逃さず皮ごと煮たいちじくは、まさに理想的な罪悪感ゼロの腸活スイーツなのです。

「皮に栄養があるのはわかったけれど、あの産毛がどうしても苦手……」
大丈夫です、どうぞご安心ください。完熟したいちじくは非常にデリケートですが、科学的にも理にかなった「ほんのひと手間」を加えるだけで、驚くほどなめらかで上品な口当たりに仕上がります。
いちじくをゴシゴシと力任せに洗うと、皮が破れて旨味が逃げてしまいます。まずは、濡らした清潔なキッチンペーパーで、表面を撫でるように優しく拭き取るか、弱い流水でサッと流す程度で十分です。
そして、産毛とエグみを完全に消し去る最大の秘訣が、日本料理の伝統技法「霜降り(熱湯処理)」です。
実はお湯をかけることで、皮の表面にある産毛が柔らかく溶け、同時に特有のエグみ成分が外へ流れ出します。さらに熱で皮の細胞組織がわずかに緩むため、煮込んだ時にシロップの優しい甘みが中心までしっかりと染み込みやすくなるのです。

お鍋の中でコトコトと静かに音を立てるたび、シロップが透き通ったルビー色に染まっていく。
その美しい色の変化を眺める時間は、忙しい日常を忘れさせてくれる、秋ならではの至福のひとときです。
果実本来の風味を活かすため、保存食としてのジャムよりお砂糖はぐっと控えめに。ミネラルを含むお砂糖を使うのが「みのり流」です。
【みのりのサイエンス・メモ:なぜシロップがルビー色になるの?】
アントシアニンは「水溶性」のため、煮ることで皮からシロップへ自然に溶け出します。しかし、そのままでは暗い紫色になってしまいます。そこにレモン汁(クエン酸)を加えると、シロップのpHが「酸性」に傾きます。アントシアニンは酸性に反応して鮮やかな赤色に発色する性質を持つため、くすみのない宝石のようなルビー色が完成するのです。

出来上がったとろとろのコンポート。私のイチオシは「朝のヨーグルト」に、果肉とルビー色のシロップをひとさじ乗せることです。
ヨーグルトの「乳酸菌(プロバイオティクス)」と、皮ごと煮たいちじくの「食物繊維(プレバイオティクス)」。
この2つを一緒に摂ることで、腸内で有益な菌を相乗的に育てる「シンバイオティクス効果」が生まれます。たったひとさじで、いつもの朝食が「腸を整える最高のご褒美」に生まれ変わります。
私が普段、栄養指導でお受けする、重要でよくあるご質問にお答えしますね。
A. はい、基本的には大丈夫です。口の周りが痒くなる原因は、いちじくに含まれる「フィシン」というタンパク質分解酵素の働きによるものです。この酵素は「熱に弱い」という特性があるため、コンポートのようにしっかり加熱(煮沸)することで酵素が失活(働きを失う)し、痒みを感じることなく安全に美味しく召し上がっていただけます。(※ただし、果物自体への重度のアレルギーをお持ちの方は医師にご相談ください)
A. 今回のレシピは砂糖を控えた「フレッシュなコンポート」です。煮沸消毒した清潔なガラス瓶に入れ、シロップにいちじくが完全に浸かった状態で冷蔵庫で保存し、約1週間以内に食べ切るのが最も安全で美味しいタイミングです。
もし食べきれない場合は、シロップと一緒にジップ付きの密閉保存袋に入れて冷凍保存(約1ヶ月)が可能です。半解凍の状態でシャーベットのようにシャリシャリと食べるのも、悶絶するほど美味しいですよ!

いかがでしたでしょうか。
いちじくのコンポートを「皮ごと」煮ることは、単なる手間抜きではありません。
抗酸化作用を持つアントシアニン、腸内環境を整えるペクチンという完璧な栄養を逃さず受け取り、さらに酵素(フィシン)による痒みを防ぐ。
そして、調理科学の力でうっとりするようなルビー色を引き出す、理にかなった最高に知的なアプローチなのです。
忙しい毎日のなかで、お鍋から立ち上る甘い香りに包まれ、透明なシロップが赤く染まっていくのを眺める時間は、きっとあなたの心と体の緊張をそっと解きほぐしてくれる「癒やしの処方箋」になるはずです。
ぜひ今年の秋は、少しだけ時間をとって、いちじくを皮ごと煮てみてください。その奥深いおいしさと、体に染み渡る確かな健康効果を、あなた自身の五感で味わっていただけたら、管理栄養士としてこれ以上嬉しいことはありません。
※本記事の栄養情報は健康維持を目的としており、特定の疾患の治療を保証するものではありません。食物アレルギー(ラテックス・フルーツ症候群など)をお持ちの方は医師にご相談ください。
笹原 みのり(ささはら・みのり)
1986年、新潟県長岡市生まれ。米どころの農家に育ち、旬を尊ぶ食文化と、祖母の台所で覚えた温度と香りの記憶が原点。大学院で栄養疫学を専攻し、日常の「食べる」を科学と言葉でつなぐ道を選ぶ。臨床・研究・編集の三領域を横断し、「食べ物の効能・効果」分野で日本一のスキルを持つ発信者として活動。
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